電力グリッドの慣性の重要性
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最も近代的な電力グリッドは交流電流を使用します。(いわゆる19世紀末の「電流戦争」でテスラがエジソンに勝利したおかげで…。基本的には、当時、交流システムは、より少ない消費で電力をより遠くまでかつ簡単に送電することが可能でした。)
他の磁場内で磁石が回転することで交流電流は発生します。蒸気発電機では、高圧蒸気がタービンを回転することで固定子の内側に取り付けられているローター(アーマチャー)が回転します。発電機は2本の磁極と、毎分3,000回転し、50Hzで発電します。(アメリカでは毎分3,600回転、60Hzで発電する設備もあります。)発電機の設備構造と発電機構は、誘導電圧の形と大きさを決めます。
発電機は回転するタービンの動力を電力に変換します。エネルギー保存の法則により、システムパワーと回転による運動エネルギーの関係を制御します。もし反対に需要に対して十分供給できない場合、ローターは減速しシステムの周波数は落ちます。発電の急な損失や、需要の急激な上昇は急速充電が必要となり、発電グリッドに接続されている設備の故障に繋がります:
- 大きな周波数の落ち込みは、高い磁化電流が磁束維持に必要なため、変圧器や誘導モーターを損傷します。これらの機器は広く送電や電力網への分配に使われますが、同様に消費者の家電にも使われ、それゆえ大きな周波数偏移を避けることは電力網設備と消費者の機器の両方を保護することに重要です。
- タービン翼は狭い周波数バンドで操業し、自然周波数上ではタービン翼の機械振動は避けられるよう設計されています。その狙いの周波数の範囲外ではタービンを損傷してしまいます。
- 周波数の落ち込みは発電機やタービンの空気流量を低下させ、冷却しづらくなります、一方発電機のコントロールシステムは入力パワーで発電を維持し需要のバランスを保ちます。それにより、タービンと発電機の内部温度は上昇します。内部温度の上昇により、保護機器が発電機をグリッドから切断させ、発電と需要の差異を広げてしまいます。
- 発電出力を上昇させると、変圧線に負荷をかけてしまい、トリップを引き起こしてしまいます。
それらを理由に、システムオペレーターは周波数を狭い範囲に維持するよう要求され、また周波数が逸脱した場合、指定の時間内に通常レベルに戻すよう要求されます。世界中の電力グリッドでは、これらの要求はシステムオペレーターの資格条件の一部です。
システム需要の多様化は進む
この課題のレベルはチャートでは、6ヶ月間隔てられた2日のそれぞれの日の電力需要を示しています。ご覧の通り、冬は当然暖房や灯火が必要になるため、夏に比較し需要が高くなっています。
需要は一日の中でも仕事から帰宅し夕食の準備をする夜にピークを迎え、就寝中の夜は需要が小さくなります。
時々、大きな需要増を引き起こすきっかけがあります。最も有名なもののひとつにFAカップ(イングランドのサッカー大会)決勝戦のハーフタイムがあります。数百万の人々がテレビ中継で観戦しており、ハーフタイムになると、それらの大勢が冷蔵庫を開け、やかんを火にかけます。。急激で相当な需要スパイクを引き起こします。
この現象は「TVピックアップ」としても知られ、そのひとつが、1990年7月4日水曜日にサッカーワールドカップ準決勝イングランド対西ドイツ戦です。イギリスの約2,600万人が観戦しイングランドがPKを外し負けてしまった時、人々はキッチンに向かいました。2,800メガワットの需要スパイクが発生し、約112万のやかん分に換算できます。
TVピックアップ現象はイギリスでは特に多くの原因が語られるが、歴史的に比較的TVチャンネルが少なく、多くの人が同じ番組を同時に見ることにあり、また、イギリス人は紅茶を好み、番組の間隙にやかんを火にかけ紅茶を淹れる傾向にあります。また湯を沸かす際に、他国では他の技術が使われているものとは違い、電気ケトルを使います。この影響は衛星の拡散、ケーブルテレビやネット放送により、実際ここ数年で現象しつつありますが、その存在はいまだに電力グリッドのバランスへの影響は大きいと言えます。
この突然の需要スパイクに対応するために、発電所は早急に起動できるようにつねにスタンバイ状態にあります。これらはスーパーピーカーとして知られ、主に需要が最も高まるタイミングに稼働します。しばしばかなり迅速に始動可能な揚水発電所も含まれます。
イギリスには限られた揚水発電所しかありませんが、実際、そういった発電所でヨーロッパにおける最大のものは、ウェールズにある1,800メガワット級のディノルイグ発電所です。6基の垂直タービンで構成され、コールドスタートから16秒でフル稼働が可能です。
揚水発電所は蓄えた電力で通常需要の少ない夜間に高所にある貯水池に水を汲み上げます。そのため価格は安くなります。電力が必要な時に高所の貯水池から水を開放し、垂直タービンを通り発電します。火力・原子力発電所の動的エネルギーとは違い重力の潜在的なエネルギーを電力へ変換します。
エネルギー転換には異なるアプローチが必要
世界中の多くの国が発電システムを、上述の大きく重いタービンを同調回転させ必要に応じて発電するという従来の化石燃料や原子力に頼った発電から、断続的な再生可能発電の割合が大きいシステムへ移行しています。
伝統的な電力システムでは、これらの大きく重いタービンは単に望ましい頻度で発電するだけでは無く、大きく重いため動かしにくいという力学的特性を通し、グリッド周波数を抑制し、動力へ変換します。エネルギーはタービンへ運ばれ一定のスピードで回転します。入力エネルギーが一定の場合、スピードを変えるにはよりエネルギーが必要となります。こうして、これらのタービンは変化に抵抗しグリッド周波数が供給と需要の増減により発生します。この性質を「慣性」と呼びます。
断続的な再生可能エネルギー発電の成長は2つの方法でシステム周波数を妨害します:
- 断続的な再生可能エネルギー発電による出力は時間経過により変化しやすいです。風速はめったに一定にならず、強さも方向も瞬間瞬間で変化します。また同様に雲の形状は瞬間的な変化が太陽光発電の出力に大きな影響を及ぼします。発電の供給と需要の変化はグリッド周波数へ影響を及ぼし、発電パターンの大きな変化はグリッド周波数の安定化をより難しくしてしまいます。
- 再生可能エネルギーによる間欠発電はますますこれまでの発電方法に取って代わり、グリッドから重量のあるタービンを減らす、すなわち慣性の供給量を減らすことになります。
Operating the system with low inertia will continue to represent a key operational challenge into the future and we will need to ensure we improve our understanding of the challenges this will bring,
(小さな慣性での運用は将来における運用上の重要な挑戦となり、また、私たちは派生する課題への理解を向上する必要があります。)
– National Grid ESO
これらの影響はますますシステムオペレーターにとってグリッド周波数を維持することを困難にし、南オーストラリアなどでは、ガス発電が運用可能なため、太陽光発電は削減され、適正な周波数で電力供給でき、慣性をグリッドに与えることを可能にします。
英国では、慣性レベルの低下に伴い、グリッド周波数の維持費用は急激に上昇しています。National Grid ESOデータは周波数の変化レート(RoCoF)の調整費用はわずか5年で約10倍で、年間3億5千万ポンド弱まで上昇しています。
エジソンの直流電流に対する支持に正当性を感じることに違いないですが、従来のグリッドから置き換えることは、ほとんどの場合、ありえないほど高額になるので、グリッドオペレーターは再生可能エネルギーの高発電量のシステムをサポートするさまざまな種類の慣性供給を検討しています。その一つの方法として同期調相機を用いて機械的慣性を送ることです。